打越節の2019年作——テキストを読むだけ、では終わらない 2019年、スパイク・チュンソフトから発売。シナリオはEver17や極限脱出シリーズで知られる打越鋼太郎氏が手掛ける。サスペンス、ギャグ、SF、パロディ——何でもありの脚本と、個性が強いキャラ群が本作の特徴だ。レビューなどでも下ネタや陰謀論などクセの強い要素も目立つが、張り巡らされた伏線が点灯し、植え付けられたエピソードがつながって真相へ向かう感覚は、打越作品ならではの唯一無二のストーリーだ。会話中心でストーリー展開が進み、一文一文の短さ——漫画をめくるようなテンポで進む。ありがちな「テキストを読むだけ」のADV像を払拭する、新時代寄りの一本として位置づけられている。
メタスコアと大手レビューサイトの評価(2019年発売時点) 媒体・プラットフォーム スコア Metacritic(Nintendo Switch) 86 / 100 Metacritic(PlayStation 4) 78 / 100 Metacritic ユーザースコア 8.6 / 10 ファミ通(クロスレビュー) 34 / 40 IGN 8.2 / 10 GameSpot 8 / 10 Nintendo Life 8 / 10 Hardcore Gamer 4.5 / 5
※ Metacritic・各メディアの掲載値。プラットフォームや版によって差があります。
批評面では、MetacriticのSwitch版が2019年のSwitchタイトル中、レビュー高評価ランキング12位 に入るなど、海外メディアからの注目も厚かった。脚本とボイス、ソムニウムの独創性を評価する声が多く、一方で下ネタやトーンの揺れ、ソムニウムの時間制限には割れる——というのが当時のレビューの大まかな輪郭だ。
受賞・ノミネートでは、ファミ通・電撃ゲームアワード2019「ベストアドベンチャー」部門ノミネート 。国内の初週販売は控えめだったが、PC版はSteamの発売月新作売上でも目立つ数字を残した。打越作品としては、極限脱出の密室サスペンスから一歩踏み出し、義眼AIと夢探索という装置で新しい読者層に届いた——評価の分布も、その試みを反映している。
世界観——近未来の東京を舞台に、義眼AIと夢に侵入するPsyncシステム 舞台は科学技術が一段進んだ近未来の東京。スマホやネットの水準は私たちとほぼ同じで、YouTuberがいる程度の違和感の少なさが入り口になる。大きく異なるのは二点——主人公・伊達鍵の左目に入った高度AI「アイボゥ」と、他人の夢に侵入できる「Psync(ピーシンク)」装置。特殊捜査班AIBIS所属の捜査官として、義眼の相棒とPsyncを使い事件を追う。キャッチコピー「殺したのは愛が欲しかったから」も「AI」「eye」と意味がかかっている。Artificial Intelligence、眼球のEye、出会いの「会い」、大切な人を想う「愛」——重なり合う言葉が、後半のテーマに意味を持たせる。
ストーリー——連続殺人の皮を被った正体探し 6年前の事件で記憶と左目を失った伊達は、義眼AIの相棒とPsyncを携え、AIBISの捜査官として動く。あるきっかけから沖浦瑞希と彼女の娘・アイリスと同居する日々も描かれる。物語は、廃墟化した遊園地で左目をえぐられた死体——瑞希の母・斉藤翔子——が発見され、現場に血染みのアイスピックを持つ瑞希本人が立ち会う、という怒涛の幕開けから始まる。冒頭2時間ほどでサスペンスの嵐が来るが、魅力的なキャラとギャグパートが多く、シリアス一色にはならない。
導入以降、記憶を失った主人公の正体へと物語は沈んでいく。誰が犯人か、だけでなく「この男は何者なのか」まで踏み込んでくる。終盤の畳みかけは、同氏のEver17に並ぶ、いや、手応えとしては上回る瞬間すらある。最後まで真犯人が見えにくいのに、各ルートの情報が矛盾せず補完し合う——この組み立ては本当にうまい。犯人当ての快感より「全部が一本の糸で繋がった」という後味が強い。反面、あまりにも見えてこないので、結末までやや長く感じる場面もある。
共通ルート以降は、メタフィクション、サスペンス、ラブストーリーなど打越節が多層に変化する。中心テーマは「愛」——とりわけ親子。瑞希と両親、松下応太と認知症の母、相場レンジと母の瞳など、血縁と選んだ家族が様々な形で描かれる。応太と母親の話は型どおりだが演技が効いていて良かった。血縁だけでは説明できないつながりと、切っても切れない血の関係——両方が転がる。エンディングまで辿り着けば、シーンが伝えるもののほうが大きい。
伊達とアイボゥ——存在感のある相棒関係 ストーリーに負けず劣らず、キャラの存在感も強い。伊達とアイボゥの他愛ない掛け合いに始まり、ネットアイドル「アセト」こと相場レンジ(ルートによって重度の陰謀論者)、ラノベ志望の応太、彼の母、熊倉モマ、幹也葉のタクシー運転手(客をババア呼ばわりするギャグ)など、挙げだすとキリがない。若干下ネタは多いが、事件自体が強烈にシリアスなので、緩衝材として機能している面もある。軸は片目を失った伊達と眼窩のアイボゥ。毒舌と論理で暴走しそうな伊達にブレーキをかける掛け合いが、捜査の合間を埋めるキャラの個性で演出されている。
ストーリーに差し込まれるパロディとミーム 今作にはパロディネタやネットミームが大量に差し込まれている。正直、この点はレビューで賛否両論がある。知らないネタが混ざっていても問題ない——元ネタが分からなくても、ノリ自体で笑える設計になっている。この空気が好きな人ほど、台詞の隙間と画面の端を注視して遊んでほしい。操作と全く関係なさそうな場所をタッチすると反応が返ってるという要素も折り込まれている。世界崩壊の危機なのに呑気にサブクエをこなしているRPGの気分——それがADVの「触る」行為として成立しているのが面白い。
音楽とグラフィック——ADVとして丁寧、必要十分の見た目 BGMはどれもシーンに合っていて、ADVの中でもしっかり作られている部類だ。タイトル画面の雰囲気は特に良い——ここだけで「長い物語が始まる」という予感がちゃんと立つ。グラフィックは必要十分。イベントシーンでチープに感じる瞬間もあるが、全体として読み進めるのに支障はない。CERO:Z対象で、血など一部残虐な描写はある。ただしホラーとして怖い、グロテスクで引く、という類ではない。推理ADVとしての情報量のほうが先に来る。
ゲームプレイ——分岐は戻りやすい、捜査UIはもう一歩 大きく捜査パートとソムニウムパートの二層。捜査は各ロケーションを歩き、人物やオブジェクトを調べるポイント&クリックに近い。調査可能な物体はカーソルを重ねると名前表示、新情報の有無が色分け——往復地獄になりにくい。関係のない人物やオブジェクトも置かれ、伊達とアイボゥの息の合った掛け合いを楽しめる。アイボゥのズーム、X線スキャン、35mm撮影など高性能機能が捜査を助ける。証言の突き合わせやタイミング系の取り調べもあり、盛りだくさんだ。分岐地点への戻りは分かりやすい。一方、選択肢の数と選びにくさ、✕ボタンが余るのに押し込みが必要、という摩擦も残る。
ソムニウムはPsyncで相手の夢に入り、夢主の潜在意識を客観視する設定。相棒が人型になり三人称操作になる——プレイ上は相棒操作だが、夢の論理を読み解くパズル寄り。写真に刺さったアイスピックを「引き抜く」ほうが正解、といった直感と感情の読みが効く。後半は複雑で総当たり要素も出るが、時間をかければ詰む設計。時間制限が厳しくネタ選択肢が選びにくい、という前出の弱点は変わらない。
初心者に優しい設計と、作り込みの深さの共存 丁寧なゲーム設計と、作り込みの深さが同居しているのも嬉しいポイントだ。ルート変更ややり直しはいつでもできる。場面場面を小窓のムービー付きで振り返れるので、「それってなんだったっけ」と迷子になりにくい。基本フルボイスで、Switchのタッチ操作にも対応した珍しいタイトルでもある。特に補記という語句解説には、打越氏本人が書いたと思しき文章が並び、物量は圧巻。ある種常識的なことまで教えてくれるおかげで、画面のあちこちを押す行為そのものが楽しい。丁寧さとネタの豊富さが、同じ土俵で成立している。初心者でも気軽に入れるユーザーフレンドリーさと、触るほど深くなる作り込みが喧嘩していない——ここが地味に効く。
ソムニウムパート——癖と弱点がここに集中する ざっくり言えば、事件の手がかりを求めて対象者の夢に入るパートだ。本作の癖の強さと問題点がここに詰まっている。伊達とアイボゥのふざけた掛け合いの半分くらいはソムニウム中に発生するのに、時間制限のせいでネタ選択肢が選びにくい。何かを動かすたびに時間が減り、隠しアイテムを一秒以上残してクリアすると設定資料が開く——その条件を見据えると、さらにシビアになる。スキップとやり直しは簡単だが、面倒さは消えない。常識が通じない世界なので、正しそうな手が道を開くとは限らず、最後は総当たりになりがち。理論もへったくれもない展開と、操作性の微妙さがマイナスに効く。醍醐味の掛け合いと、制限時間の厳しさが同じ部屋で喧嘩している感じだ。もっとふざけた選択肢もあるのに、時計が許してくれない——そのストレスは人を選ぶ。
システム——クリアまでは安定、長時間プレイは再起動推奨 クリアまでフリーズはなかった。ただしクリア直後にアルバムを確認しているとクラッシュした。長時間起動しているとロードが長くなるので、適度に再起動したほうが無難だ。致命的な不具合というより、長居した人向けの注意くらいの温度感。
GPA分析と類似作品で見る立ち位置 GPAのタグでは、ストーリー充実度・テキストADVが90%、感情的物語・マルチエンドが85%、実存的テーマが75%。アクション性はほぼゼロで、「読む・選ぶ・夢を探索する」体験だと数字が正直に出ている。テキストADV・マルチエンド・実存的テーマが高次元で揃うミステリーADVとして、考察派向けの位置づけだ。
作品傾向グラフ(AI: ソムニウム ファイル) ※ GPAの大タグスコアに基づく。アクション性はほぼゼロ寄りの配置。
類似作品の文脈では、同じ打越系譜のEver17/極限脱出が「伏線とメタの衝撃」の直前に来る。社会全体のアンドロイド問題を分岐で体験する デトロイト ビカム ヒューマン と比べると、本作のAIは「片目分」の相棒関係に閉じているぶん、個人的で濃い。群像と年表の再構成が本体の 十三機兵防衛圏 は物語密度の隣席、考察とテキストの厚みでは Disco Elysium と並べて語られやすい。デトロイトの次に挟むと、社会運動ではなく密室と夢の中で同じ問いが立ち上がる——空気が一段変わる。
賛否を分けるギャグ——ここが合わないと全体が遠い 以下は「悪い」とまでは言わない。ただ世間一般のウケは割れやすい要素だ。まず大前提として、ギャグパートが合わなければ作品ごと受け入れにくいだろう。一見カッコ良い銃撃戦に見えて、蓋を開けるとバカみたいなオチで終わることがある。常にそのノリではないし、緊張感のあるシーンも多い。それでも、シリアスに見える場面へのギャグ挿入が多く、寒いと感じる人はいる。笑いと絶望が同時に来る打越節の入り口だと思ったほうがいい。
著者のレビュー ギャグパートが気になり始めると、個人的な評価は下がる。それでも全体のストーリーはよく出来ていて、面白かった。Ever17ほどの衝撃や、極限脱出ほどの緻密さはない——が、曖昧な「愛」という概念で物語を収束させる手腕は別格。癖は強いが、今遊ぶべき新時代ADVとして十分おすすめできる。CERO:Z(18歳以上)で、推理系ADVが好きな人向け。2022年6月の続編「AI: THE SOMNIUM FILES – nirvanA Initiative」は6年後が舞台。先に今作、後に続編の順で。
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